|
◇うそとまこと
昔ならともかく、准将という地位にあるマスタングが町のテロ現場へ出動することはそうそうない。セントラルの防衛責任者は部下であるハボックであり、彼はあくまで現場視察の立場なのだ。
だから、目の前で自分と同居する少女が人質とされていても、自分が直接指揮を執ることは出来ない。小事に口を出しては、ハボックの立場を貶めることになる。
それに大人しくテロリストに捕まるような彼女ではないから、何かしらの算段があるに違いなく。数々の修羅場を潜り抜けてきた彼女なら、そこらの三流テロリストなど危なげなく取り押さえてみせる違いないから。
人質の顔をみた部下達も、もう事件は解決したとばかりの余裕を見せている。テロリスト達に同情のコメントを寄せるものもいるほどだ。
鋼の錬金術師の活躍を知るものなら当然の反応。彼女は誰よりも勇敢で強い。
なのに、この焦りはなんだろう。
ポケットの中の手袋を握り締める手に力が篭る。
練成の光と銃声は同時に起こった。
元国家錬金術師のアクションを契機に、テロリスト達を手際よく拘束していく部下達。慌しい動きの中、マスタングは金色の髪の少女だけを見つめていた。そして銃口から飛び出した弾が彼女の頬を掠める様に血が凍った---。
++++
テロ事件の後、何故か非常に機嫌を損ねたマスタングに手を引かれ、マスタング邸に戻ったエドワードは、マスタングの手による応急処置の上、更に軍付属の病院へと連れて行かれた。
「この程度ならば痕は残りませんよ。お若いですしね。」
そう、老軍医に診断されて始めて、マスタングはほっとしたようだった。
「君の顔に傷が残らなくてよかった。」
傷なんて、旅をしていた頃はしょっちゅう作っていて、それもロイのからかうネタのひとつだったのに・・・。
エドワードには、マスタングの過剰な反応の意味が分からない。
ただ心から安堵したように微笑みかけてくるものだから、同じように微笑みを返した。
|