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◇テロリスト襲来
初夏の陽気がさわやかな、ある日のキャンパスの平和は突然破られた。
学内のカフェテリア。エドワードは、突然の休講で空いてしまった時間を大学に入って仲良くなった友人達とおしゃべりしながら過ごしていた。すっかり普通の女の子にも馴染むようになったエドワードが、女子大生生活を満喫できることに満足を覚えていた矢先。
ダカダカダカッ
突然、硬い靴の音が鳴り響いた。
ぴりりと緊張した空気が流れる。それは、その昔トラブルメーカーと呼ばれていた頃によく遭遇した空気だった。囲まれるまで気がつかなかったのは、すっかり平穏な暮らしに馴染んでいたせいか。すっかり遅れを取った今、動くのは得策ではない、とエドワードは判断して、周囲の学生や職員とともに大人しく拘束された。
「やだー。なんなのよう。うぇっ。ひっく。」
緊張に耐え切れずに、友人の一人であるマリーが泣き出だした。出来ればテロリストの注目を集めるような行為は避けたかったので。テロリスト達にばれないよう、エドワードは自由の利く手でこっそりとマリーの手を握った。
「大丈夫だから。すぐ、軍が助けに来てくれるから。ねっ。」
目を見つめて微笑めば、マリーの安心を得られたようだ。事件発生から15分ほど。セントラルの対テロ防衛の任に当たっているロイの部下がそろそろ駆けつけてくるはずだから、それまでじっとしていればよい。なんといっても自分はもう民間人なのだから・・・。
「あー。あー。テロリストへ告ぐー。われわれはお前らなんかと交渉する気なんぞないからなー。速やかに人質を解放して、お前らもさっさと投降しろよー。」
「ふざけるな!」
(かわんねえなぁまったく、煽ってどうする気なんだ、ハボック中尉よぉ。)
「そこのお前っ。来い。」
何も知らないテロリストの眼には、大人しく俯いている、小柄で華奢な体型のエドワードが格好の人質候補に見えたらしい。既にこの時点で、テロ行為の失敗は決まったようなものだが、その点に気がつくほど程度の高いテロリストではなかったようだ。メンバーの一人がエドワードの腕を掴み、こめかみに銃を押し当てた。
「我々は本気だ。この女から撃つ!!!」
「こらー、レディに無茶するなよー。そんなんじゃ女にもてねえぞー。」
そんなこと、少尉に言われたくないっすよね。まったくだ。わはははは。
緊張感のない軍人達に、テロリスト達の怒りゲージはみるみる上がり。
勿論、それは、おそらく人質が誰なのか、確認したうえでの挑発行為に違いなく。それならば、この直後に人質解放のための奇襲を行うはずだ。それに乗じて・・・
(いまだっ)
エドワードは横のテロリストの持つ武器を蹴り上げた。ぱーんと両手をうち、別方向から撃ってきたテロリストの銃をおもちゃのラッパに練成する。茂みからいっせいに現われた軍人達が残りのテロリストを排除し、人質は全員無事解放された。
「鋼の錬金術師殿、ご協力ありがとうございましたっ」
兵士達の最敬礼を受け、「いや、もう違うからさぁ。」と否定しながらも、ついくせで敬礼を返してしまう。イマドキ風の美人揃いな友人達が揃って・・・口をあんぐりと開けている姿を見て、エドワードは苦笑した。
「おーい。姫さんー。」
片手を挙げて近づいてハボックの方を見れば、その長身の後ろに近頃では現場に出ることなど少ないはずの同居人の姿があった。
「何であんたまで現場に出てきてるんだよ。」
「何で、でもいいだろう。」
何故か不機嫌そうに自分を睨みつける男の手が頬に伸びた。
あ、そこ、さっき弾丸が掠めたよな、そういえば。
「家へ帰るぞっ」
「な、なんだよっ。何怒ってんだよ。」
生身の腕を強く引かれて、抵抗できぬまま、エドワードは帰宅の途についた。
++++
「ねえ、エド!あんた、あの有名な鋼の錬金術師なわけ?」
「マスタング准将とはどういう関係なのよ!」
テロ事件の翌日。エドワードは友人達からの質問攻めに合っていた。
女というものは案外に強いものらしい。エドワードはそんなことを思った。
テロ現場で人質となったのは昨日の今日なのに。
「確かに昔はそうだったけど。今はもう辞めたから。」
「鋼の錬金術師といえば、すんごい可愛い男の子だって聞いてたわよっ」
(可愛いってなんだ、可愛いって・・・)
「それよりもマスタング准将とはどういう関係なのよ?」
「あいつは、俺の元後見人で・・・。」
「今は恋人なのね!」
「マスタング准将と一緒に暮らしてるの?」
「うっそ、同棲???」
「そんなんじゃない。」
ロイ・マスタングの恋人といえば、セントラル中の女性の関心のひとつなのだ。マリーたちはすっかり色めき立つ一方でエドワードの心は醒めていた。
(俺達の関係は・・・罪人とその監視役だ。)
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