ラブドロイド1 〜序






セントラル郊外の高級住宅地にあるレンガ造りの瀟洒なその建物は、伊達男としてセントラルでも1・2を争う有名な男の住まい。そして同じぐらいに有名な青年の下宿先でもある。
家主の名は、ロイ・マスタング。下宿人の名は、エドワード・エルリックという。


新緑も映える初夏のとある日。
エドワードは3ヶ月ぶりに出来た彼女を自宅(下宿先)へと招いていた。
その日は家主も在宅である。男盛りの二人(若干一名は盛りを超えたと言えないでもないが当人が否定するので、男盛りとしておく)が同居するにあたり、ひとつだけ取り決められた事柄があった。

それは、「女性を連れ込まないこと」。

エドワードからしてみれば、同居人が常時不特定多数の女性とお付き合いするのはなんら構わないが、不道徳な場面を目の当たりにしてバツが悪くなったりするのは堪らない。マスタングにしても、お互いの相手が自分の自宅でかち合うなんていうことは出来れば避けたいケースだ。なにしろ、縁のある女性は多い。エドワードの連れが過去にお付き合いしていた女性である可能性だって結構な確率で起こり得るのだ。
そんなわけで作られた不文律であるが、唯一の例外があった。
それは、最初から相手の了解を得ており、かつ、二人とも在宅している場合。
つまり、同居人立会いの下という健全な環境ならば、女性の招待もOKということ。したがって、同居を始めてからというもの「健全」という言葉からもっとも遠い位置にいるマスタングが自宅に女性を招いたことはない(それ以前のことは想像に難くないのでエドワードは確かめる気もないが)。ステディな関係になった女性を自宅へ招くのは、いつもエドワードの方なのである。


「マチルダ。こいつはロイ。家主のロイ・マスタング。」
「初めまして。マスタングさん。」

「やあ。ようこそ。」

マスタングは、ハボックをしてタラシ免許皆伝と言わしめた爽やかな笑顔で客人を出迎え、仲睦ましげにリビングへ向かう恋人達の背を見送った。エドワードは(自分よりも小柄で)大人しいタイプがお好みなようで、手足を取り戻して幾分か成長したものの、若干平均身長には届かなかったエドワードと女性が並ぶと大層かわいらしいカップルといった風情である。

まさに微笑ましい光景なのだが。
お茶でも出そうとキッチンへ向かう男は、口の端に薄らと笑みを浮かべてそっとひとりごちた。

(さて、今度はどのくらい続くのだろうね。)

マスタングには見えるのだ。優雅な動作でお茶をサーブする年上の男に、まだ若いエドワードの連れがそっと顔を赤くするであろうことを。



+++


「マチルダ。あんた、何でエルリック先生と別れたのよ。あんなにお熱だったくせに。」
「えーと。どういえばいいのかな。まあ、エルリック先生の運命の人は私じゃなかったってこと?」
「は?あんた何言ってんの?意味わかんない。つうか、何で疑問形なわけ?」



マチルダ嬢は振り返る。

それはそれは綺麗な顔と、見事な金糸の髪をしている先生に恋をしたのは大学に入学して少したった頃だった。担当教官を探して、教授たちの部屋がある研究室棟へ迷い込んだ際、突然扉から現れたエルリック先生に一目ぼれしたのだ。ボーっとした様子だったから、おそらく研究で徹夜でもしたのだろう。ちょっとヨレヨレになった白衣に、ぼさっと下ろされた長い髪(普段は後ろで一括りにしていることをその後知った)。小さな顔に乗せられた眼鏡は少しズレ落ち気味だった。普通なら冴えない学者で終わる風体なのに、その時は後光が射して見えた。とにかくキレイだったのだ。エドワード先生は。

そんなエルリック先生から突然告白されたのが3ヶ月前。
それなりにラブラブなデートを重ねて、とうとう自宅に招かれたのがつい先週。
「ちょっと変な奴がいるけどさあ、気にしないで。まあ、俺にとっては身内みたいなもんだから紹介するよ。」
エルリック先生曰く「変な奴」とは、誰と聞かなくても先生と同居しているという有名な軍人「ロイ・マスタング准将」のことで。直々に玄関で出迎えてくれたマスタング准将の微笑みは噂どおりに完璧な紳士そのもので、すっかり舞い上がってしまった。エルリック先生のステキさとはまた違う・・・それは、大人の男の魅力。

問題はエルリック先生に案内されたリビングで起こった。
准将閣下が自らお茶を運んでくれたので恐縮しつつ受け取った。さっきよりも近くで見た准将の顔はウットリするぐらい整っていて、少し気が遠くなりかけたのだけれども。
次の瞬間、准将の切れ長の目が優しく弧を描いたので腰を抜かすほどビックリしてしまった。こんな顔で微笑む人だとは聞いていない。そんな驚きの余所で、准将はエルリック先生にお茶をサーブしている。返すエルリック先生の笑顔も一瞬だけど、今まで見た中で一番綺麗な笑顔だった。

やん。どうしよう。

ひっそりと赤くなる頬を押さえマチルダは思った。

すっごくステキな二人かもっ。



気がついてしまった事実は無かったことに出来ないわけで。
マチルダはエルリック先生との交際にピリオドを打った。
後悔は無い。代わりに今後の楽しみを得たのだから。
きっと親友だって一緒に「萌えて」くれるに違いない。




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