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Better Days
side A
兄さんはよく手帳を開いている。図書館で文献を手繰りながら研究用の手帳に書き込んでいるそれではなくて。
ふとした時間。汽車を待つ間だったり、宿に腰を落ち着けて少し手持ち無沙汰になった時間だったり。
いつもと違う、研究用のものではない手帳を広げて何かを書き込んだり、ただ眺めたり。そんなときは決まって、物静かでとても穏やかな表情をしているんだ。
side E
あいつから手帳を渡されたのは、旅をするようになってから半年ほどたった頃だ。
「鋼の。君にこれをやろう。」
「俺、手帳なら持ってるぜ。」
「それは研究用だろう。これは・・・そうだな。交換日記のようなものかな?」
「はぁ?」
交換日記って、俺と大佐が?
意表をつかれすぎていつもの悪言(分かっているのだ。これでも。大佐に対しては特に口が悪いことを)も吐けず首を傾げた俺の前に、ひらひらと突き出されたのは、先に手渡されたものとまったく同じカバーの手帳だった。
「これは、わたし用だよ。君と一緒に始めようと思ってね。」
「なんで大佐とそんなマネしなきゃなんねんだ?」
「私がね、もっと知りたいんだ。君の事を。それに、君に私のことを知ってもらいたいからね。」
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なんだかんだで無理やり渡された手帳を無碍にも出来ず(物に罪はないのだ)、その後、再び話題に上ることがなかったために、きっと気まぐれだったのだろうと割り切ると、かえって手帳を開きやすくなり。マスタングと交換する云々の約束は忘れたことにして、エドワードは送り主の希望通りに第2の手帳を利用するようになった。
エドワードは身体のサイズそのままに小さい字でびっしりと書き込みをするタイプだ。だから、手帳を1冊埋めるのに丁度1年掛かった。毎日ではないけれど、割と頻繁に書き込んだため、本当にびっしりと文字で埋まった。
手帳には、旅先で美味しかった物、優しかった人、心に留まった風景、横暴な軍人に対する憤りなど、本当に取り留めないことばかりが詰まっていた。
ページの残りも僅かとなった頃、この小さな習慣が気に入ってしまったエドワードは次の手帳を用意しようと立ち寄ったセントラルの文具店で似た形のものを物色していた。
「おや。鋼のじゃないか。手帳を買うのかね?」
背後から不意に手にしていた手帳を取り上げたのは、最初の手帳をエドワードに手渡したその人だった。
手帳のデザインを眺めて、うんうんと顎に手をやる。エドワードはこの大人の何気ない仕草に目を奪われることがしばしあったから、そのときも思わず無言でじっと見つめてしまった。
エドワードの視線を知ってか知らずか。大人は続ける。
「もしかして、私が渡した手帳が終わってしまったのかい?次のものは用意しているから、イーストまでとりにおいで。」
無理やり手を引かれ、文具店から連れ出されたので、結局エドワードは新しい手帳を買うことが出来なかった。
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その後訪れたイーストで、エドワードはマスタングが書いたという手帳と自分のそれを無理やり交換され、約束どおり新しい手帳をもらった。
それから3回ほど手帳を交換した頃、エドワードは自分の宿願を果たした。今はもう手帳を広げることはない。思ったことを書きとめずとも。その日の食卓で向かい合わせの相手に話をすればそれで済むのだ。
「なあ、そういえば何で。日記帳をくれたんだ?俺はともかく。あんた、毎日日記なんか書く柄じゃなかっただろう。」
「昔君に言ったとおりだよ。君のことが知りたかったし、私のことを知ってもらいたかったから。」
・・・お付き合いといえば、『交換日記』から始めるものだと昔からきまっているもので。
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